仙台高等裁判所 昭和57年(ネ)70号 判決 1984年9月28日
控訴人 大友秀男
被控訴人 国
代理人 林甚市 大島真彰 伊藤武 ほか三名
主文
控訴人の本件控訴及び当審で付加された予備的請求をいずれも棄却する。
控訴費用及び右予備的請求に関する訴訟費用はいずれも控訴人の負担とする。
事実
控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し別紙目録記載の土地の引渡をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めたほか、当審で付加した予備的請求として、「被控訴人は控訴人に対し一億九〇〇〇万円及びこれに対する昭和五八年一一月二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。
被控訴人は主文と同旨の判決を求め、右予備的請求が認容され仮執行宣言が付される場合には担保を条件とする仮執行免脱の宣言をするように求めた。
当事者双方の主張及び証拠の関係は、次に付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
(控訴人の予備的請求原因)
一 本訴において控訴人は被控訴人に対し、所有権に基づく引渡請求権もしくは不当利得返還請求権のいずれかにより本件土地の引渡を求めているのであるが、右引渡義務の履行が不能であれば予備的にその代償請求をするほかないことになる。
二 その損害賠償額は、本件土地が仙台市扇町三丁目三番四宅地全体を活用させるという通常の利用方法による評価をもつてする正常な取引価格によるべきであり、その位置、環境、利用状況その他を考慮すると少なくとも一億九〇〇〇万円を下らないものと思料される。
よつて控訴人は被控訴人に対し、従来の主位的請求が認容されるのを解除条件として予備的に、右一億九〇〇〇万円及びこれに対する本件口頭弁論終結の翌日である昭和五八年一一月二日から支払済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人の追加主張)
一 被控訴人主張の昭和四一年一月一四日付売買契約が無効であることについては既に主張したところではあるが、更に次の諸点を追加する。
1 前訴において被控訴人は、A土地は無登記無番の土地であると主張していたのであり、右売買の契約書であるという乙第七号証はもとより、これと関連する筈の乙第六号証の三、乙第一一号証にもかかる無登記無番の土地が売買目的物の中に含まれていたことを窺うに足りる何らの記載もないから、A土地を控訴人から買受けたとの被控訴人の主張には合理的根拠がない。
加うるに右売買当時A土地の位置及び範囲は特定されていたとはいいえないから、所定の効果を生じない。
2 前訴の審理途中の昭和四四年六月二七日以降被控訴人は、A土地は昭和二二年自創法により控訴人に売渡された仙台市原町南目字中芳谷地二七二、三二四の二、三三二、三三八の土地の一部に該当する私道であると主張を変更した。そのため控訴人は、国有地であつたA土地を時効によつて取得したことを理由とするその所有権確認請求を維持する必要がなくなり、被控訴人の同意を得てA土地部分についての訴を取下げた。
かかる前訴の経過からすれば、本訴において被控訴人がA土地は前記売買により宮城県の所有となり、昭和四四年七月二九日付宮城県・国間の売買により国の所有になつた旨の主張をするのは信義則に反し許されないところである。
3 仮にA地が前記売買の目的とされたとしても、当時国側が国有財産管理法に基づく管理権を行使して右土地に対する控訴人の私権を否定する行為がなければ、控訴人においてたやすく右土地の売渡しはしなかつたものであるから、右権限の行使は専ら右売渡しを目的としてなされたものというべきである。かような目的をもつて行使される行政権限の目的外行使は権利の濫用であり、その結果である右各土地の売渡行為もすべて当然に無効である。
4 前記売買においてA地については対価の支払―補償がなされていないから、憲法二九条に違反し、地方自治法二条一四項(現行一六項)により無効のものである。
5 乙第六号証の三の売買契約書には、その売買目的土地がすべて「田」と記載されており、その取引条項の記載にも右契約が農地法所定の許可を受けないで効力が発するものであることをみるべきものは何もなく、却つて逆に、右許可を受けなければ契約の効力を発生しないものであることが記載上に明らかであるところ、この許可については、右記載の取引条項から窺われる約定期間の昭和四〇年一二月三一日までに右許可が受けられなかつたのであるから、同日の経過と共に許可のないことに確定し、従つて右契約は効力を生ぜず、この契約によつては右買主の公社が右売買目的土地の所有権を取得するに由ないものであつたことが明白である。
6 前記2の経緯で所有権確認の訴が取下げとなつたA土地及び控訴人が時効により所有権を取得したことが確定判決によつて認められているBCDFGH土地を被控訴人が占有支配しているのは、刑法二三五条の二の不動産侵奪に該当し、また法律上の根拠なくして占用の利得を収納したものであり、従つて憲法二九条、三一条、一四条の規定する法律秩序を国自らが否定するものにほかならず、公序良俗に反しきわめて不合理、不都合のものといわなければならない。
二 被控訴人は、BCFGH土地上の権利関係は換地処分のあつた昭和四七年七月三一日の経過と共に消滅したと主張する。しかし被控訴人は、前訴において昭和五一年一二月二四日上告審判決のあるまで控訴人の時効取得の主張を争つたのである。被控訴人がそのようにしたのは、換地処分によつても控訴人の権利が消滅したとは考えなかつたからにほかならない。しかるに本訴に至つて前訴での主張と矛盾する主張をするのは信義則や既判力に反し許されないことである。
のみならず、当該土地が被控訴人のいう「公共施設の用に供されている国又は地方公共団体の所有する土地」として取扱われたとしても、それが実際にそうでない場合には無意味であり無効であるから、土地区画整理法一〇五条二項の効果を生ずるに由ないことは当然である。
三 なお、原判決は控訴人の主張排斥の理由としてBCFGH土地が現地のいずれにあたるか容易に確定し難いことを挙げているが、控訴人は、確定判決主文掲記の別紙図面(一)に基づいてこれを換地図上に現わすため裁判上の鑑定を求め、その結果の鑑定図に基づいてこれを現地に復元するための実測をした。従つて現地を特定した手順に手落ちはない。
(被控訴人の補充陳述)
一 控訴人は、被控訴人が前訴においてA地が控訴人の所有であることを認めたため、A地についての訴を取下げたとの趣旨の主張をしているが、これは殊更に事実を歪曲した主張である。被控訴人は前訴において、A地は控訴人から宮城県に対して売渡された土地の一部である筈であるのに、重ねて右土地につき時効取得を理由とする請求をしているのはいかなる根拠によるのか、との趣旨の釈明を求めたにすぎず、前訴の当時A地が控訴人の所有であることを認めた事実はない。
二 BCFGHの土地についての前訴確定判決は、既述の換地処分後の土地を対象としたものではなくて、あくまでも従前の土地を対象とした判決であるのにすぎない。換地処分による権利消滅というような不利益を避けようとするのであれば、控訴人は土地区画整理事業の施行者を相手にして従前地BCFGHが自己の所有であることを主張して、これにつき換地の指定を受けるような手続を採るか、或いは不換地を理由とする清算金の支払を求めるべきであつた。
なお、本件土地区画整理事業では、右BCFGHの土地を土地区画整理法二条六項にいう「宅地」以外の土地、即ち「公共施設の用に供されている国又は地方公共団体の所有する土地」として取扱つていたため、当初から仮換地の指定や換地処分をすることは予定されておらず、現実にもなされなかつた(これらの処分は「宅地」についてのみ行われるものである)。しかるに、前訴の判決により右各土地が控訴人の所有であることが確定された。かかる結果からすれば右土地を公共施設用地として取扱つたのは誤りであり、右土地についても仮換地及び換地が与えられるべきであつたわけであるが、前記事業における各行政処分は有効に確定しているのであるから、控訴人が時効取得した右土地に対応する換地は結局のところ存在しないのである。
三 以上のとおりであるから、控訴人がABCFGH土地につき依然所有権を有していることを前提とする控訴人の引渡請求及び予備的代償請求はいずれも理由がない。
(証拠)<略>
理由
一 控訴人が「本件ABCFGHの土地」と指称している土地につき同人の所有権が現存しているか否かの判断の前提となる事実についての当裁判所の認定は、次に付加するほか原判決理由の一(五枚目裏七行目から七枚目裏末行まで)の記載と同じであるからここにこれを引用する。
1 右引用部分冒頭の証拠挙示欄に、「成立に争いのない乙第二八、第三二、第四一号証」を加える。
2 七枚目表五行目の「原告は」の次に、「右BCFGHの土地のほかA土地など数筆の土地を含めてこれらにつき」を、同六行目末尾のの次に、「この訴訟係属中原告は被告から、右A土地など数筆の土地は先に原告が開発公社ないしは宮城県に対して売渡した土地の中に含まれている筈であるのに、これらが国有地であつたことを前提とする取得時効の主張をしているのは何故か、との意味の釈明を求められ、これを機縁としてA地ほか数筆の土地についての訴を取下げた。」をそれぞれ加える。
3 七枚目裏五行目末尾の次に、「ところで、右土地区画整理事業においては本件のBCFGHの土地を当初から「公共施設の用に供されている国所有の土地」として取扱つていたため、土地区画整理法二条六項にいう「宅地」についてなされる仮換地の指定や換地処分をすることは予定されておらず、現実にもなされなかつた。この結果BCFGHの土地は本件宅地中の一部としてこれに組込まれた。」を加える。
二 右認定のとおりA土地は当初控訴人の所有であつたが、最終的に被控訴人が買受けた土地中に含まれているものである。控訴人は右売買が無効ないしは失効した旨主張する。この点についての当裁判所の判断として、次に付加するほかは原判決理由の二(八枚目表一、二行目)の記載を引用する。
当審での控訴人の前記主張一の1、4の点は前掲証拠に基づく前記認定と相容れない事実の主張であつて、かかる事実を認むるに足りる証拠もない。同3の事実も裏付となる証拠はなく、同6の点は証拠に基づかない事実を前提とする主張である。同2の点は本判決で付加した前記一2後段の認定事実と相反していて前提を欠き、同5の農地法に依拠する主張も宮城県が買受人(権利取得者)であることに徴して問題とするに足りない。
以上のとおりA地売買の効力に関する控訴人の主張はすべて採用することはできない。
三 前認定のごとく、控訴人と被控訴人との間にBCFGHの土地が控訴人の所有であることを確認した前訴の確定判決が存在する一方、これらを含む一団の土地が先に宮城県において控訴人及び訴外荘司格一から買受け、昭和四四年七月二九日被控訴人国(運輸省)に譲渡した従前地の換地として指定、処分され(この公告日は昭和四七年七月三一日)たのである。しかるところ<証拠略>によれば、前訴の確定判決は右換地処分後になされたものであるのに全くこの点について触れることなく、昭和三六年七月二五日の経過とともに完成した取得時効を理由に、「仙台市原町南目字中芳谷地所在の別紙図面(一)記載B、C、(D)、F、G、H(この符合は前訴判決の表示に従つたものであり、本件のBCFGHの土地の符合とは必ずしも一致しない)の土地はいずれも控訴人の所有であることを確認する。」との主文でもつてなされていることが明らかである。そしてBCFGHの土地についてこれらを従前の土地とする換地処分がなされなかつたのは前認定のとおりである。土地区画整理法一〇五条二項によれば、現地計画において換地を宅地以外の土地に定めた場合においては、その土地について存する従前の権利は、換地処分があつた旨の公告のあつた日が終了した時に消滅するのであるから、昭和三六年七月二五日の経過とともに控訴人が占有開始時に遡つて時効取得した所有権は右公告日の終了時に消滅したわけである。従つて前訴の判決はかかる消滅した所有権を確認したことになる。但しそうは言つても、当該判決の対象土地が換地処分後の「仙台市扇町三丁目三番四宅地一五九三六・八六平方メートルのうち別紙図面記載の……」というようになつているのであれば、その理由のいかんはともあれ確定判決としての所定の効果を有しているというべきであるが、そのような表示になつていないのは前示のとおりであり、結局法律上は存在しなくなつた土地について所有権確認をしたものとして右の効果を認めることは不能であるといわなければならない。
当審での控訴人の前記主張二が理由ないことは上来説示に照らし明らかである。
なお、前訴においても訴訟の目的物をいかに表示するかは原告たる控訴人の責任に属することであるから、右の如き意味で無効な判決となつたことにつき被控訴人もしくは裁判所を控訴人が非難することは筋違いであるというべきである(因みに、前顕乙第四一号証によれば、前訴で被控訴人が提出した準備書面には右換地処分が予定されている旨の記載がある)。
ほかに、控訴人が本件で主張する別紙目録記載の土地が控訴人の所有であることを認めるに足りる証拠はない。
四 以上のとおりであるから、別紙目録記載の各土地が控訴人の所有であるということはできない。
よつて、これら土地の引渡を求める控訴人の主位的請求を棄却した原判決は相当であり、当審で付加された控訴人の予備的代償請求も理由がないから、本件控訴及び右新請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 輪湖公寛 小林啓二 斎藤清実)
図面 <略>
目録 <略>
〔参考〕第一審(仙台地裁 昭和五二年(ワ)第九三八号 昭和五七年二月一八日判決)
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 原告は、「被告は原告に対し別紙目録記載の土地の引渡をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
「一 別紙目録記載の土地は原告の所有である。
1 (一)の土地(Aの土地)は、原告が昭和二二年七月二日自作農創設特別措置法により売渡を受けたものである。
2 (二)ないし(六)の土地(BCFGHの土地)はついては、原告と被告間の仙台地方裁判所昭和四〇年(ワ)第四四八号所有権確認請求事件において、いずれも原告の所有であることを確認する旨(時効取得を理由として)の判決の言渡があり、昭和五〇年一〇月六日控訴棄却、昭和五一年一二月二四日上告棄却の判決の言渡によつて確定したものである。
二 被告は右土地を占有している。
三 よつて、原告は被告に対し右土地の引渡を求める。」
第二 被告は、主文同旨の判決を求め、答弁および抗弁として次のとおり述べた。
「一 請求原因事実のうち、一の1は認める。2は否認する。ただし、原告と被告間に原告主張の確定判決があることは認める。しかし、右確定判決により原告の所有であることを確認された土地が現地において原告主張の地域にあたるか否かは明らかではない。
同二は認める。
二 Aの土地はもと原告の所有であつたが、原告は宮城県に対し昭和四一年一月一四日Aの土地を含む仙台市原町南目字中芳谷地二七二番および同三二四番二の土地を売渡したうえ、同月一八日その旨の所有権移転登記手続をした。
(初め原告は昭和四〇年四月二三日ごろ財団法人宮城県開発公社(以下「開発公社」という。)に対し右二七二番および三二四番二の土地を売渡したが、開発公社が宮城県に対し同年一二月一五日右買主の地位を譲渡することとしたため、あらためて宮城県と原告との間に売買契約をすることとなつたものである。)
三 原告主張の確定判決は、仙台市の施行する土地区画整理法による換地処分が行われる前の土地を対象としたものである。右判決が原告の所有であることを確認した土地は土地区画整理法一〇五条により宮城県知事が換地処分をした旨を公告した昭和四七年七月三一日の翌日をもつて被告に帰属することとなつたものである。したがつて、これらの土地に対する原告の権利はすでに消滅したものというべきである。すなわち、
1 宮城県は原告から昭和四一年一月一四日仙台市原町南目字中芳谷地二六六番、二六九番、二七二番、三三二番、三二四番二、三三八番の土地の譲渡を受けた(坪四〇〇〇円の割合、二六六番および二七二番の土地は後にいずれも一および二に分筆された)。
同様に宮城県は荘司格一から同日仙台市原町南目字中芳谷地三二四番一、三九六番一、同番二、三九九番の土地の譲渡を受けた。
(原告および荘司格一は、初めは開発公社に対しこれらの土地の譲渡をしたが、開発公社から宮城県に対し昭和四〇年一二月一五日右買主の地位の譲渡がなされたため、あらためて宮城県と原告および荘司格一との間に右売買契約がなされたものである。)
2 宮城県は昭和四四年七月二九日、原告および荘司格一から買受けた前掲の二六六番一、二六九番、二七二番一、三三二番、三二四番二、三三八番、三二四番一、三九六番一、同番二、三九九番の土地を国(運輸省)に譲渡した(昭和四四年八月一日登記)。
3 国(運輸省)は仙台市から昭和四七年八月一日これらの土地に対する換地として仙台市扇町三丁目三番四の宅地の指定を受け、昭和四八年二月二八日右換地処分による登記手続がなされた。
4 仙台市の施行する右土地区画整理事業の換地計画において、BCFGHの土地は水路敷として国の公共施設用地であるとみられていたので、これについては換地が定められないで、その上に存する公共施設が廃止されるとともに、これに代るべき公共施設用地として水路が設置されたことからみて、BCFGHの土地について存した原告の権利は宮城県知事が換地処分をした旨を公告した昭和四七年七月三一日が終了した時において消滅したものというべきである。
5 右宅地は現在仙台陸運局の敷地となつているが、そのうちの原告主張の部分の土地所有権が原告にあるとしてその部分だけの土地の引渡を求める本訴請求は権利の濫用というべきである。」
第三 原告は、答弁および再抗弁として次のとおり述べた。
「一 被告主張の売買契約をした事実は否認する。
二 右売買契約は次の理由により無効である。
1 右契約の目的物たる土地の範囲は現地のいかなる地域にあたるかが確定しえない不特定なものである。
2 右契約書に記載された本件土地の地積は実際の土地の地積よりも著しく過少なものである。したがつて、右契約は原告からその差積を無償で取り上げる内容のものである。
3 坪四〇〇〇円の代金の約定は土地価格の高騰を全く考慮しない不当なものである。
4 原告は開発公社の職員から公図上水路として表示されている土地は国有地であるといわれたため、それならば祖先伝来のその一帯の田を従来どおり耕作することは不可能であると危惧して、本件契約を締結したものである。しかし、これらの土地は時効取得を理由として原告の所有であることが本件確定判決により明らかとなつた。
5 本件契約は、宮城県が開発公社の職員を通じて締結したものであるから、地方自治法一五三条一、二項、二三四条五項に違反し、無効である。
三 第三項の事実は否認する。」
被告は、「原告の再抗弁事実は否認する。」と述べた。
(証拠)<略>
理由
一 Aの土地がもと原告の所有であつたことと、原、被告間に原告主張の確定判決があることについては、当事者間に争いがない。
右の事実に、<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。
1 昭和三九年三月三日仙台市を含む四市一二町村が新産業都市に区域指定された。
宮城県知事の企画した仙台湾地区新産業都市建設基本計画は同年一二月二五日内閣総理大臣の承認を得た。
2 これにより仙台市苦竹地区については自動車整備工業団地として用地買収をすることとなり、その交渉には開発公社があたることになつた。
3 そこで、開発公社の用地課長岩渕一男は昭和四〇年二月四日原告と初めて会つた。そして、原告に対し原告所有の仙台市原町南目字中芳谷地二六六番、二七二番、三二四番二、二六九番、三三二番、三三八番の土地を仙台市原町南目字大隅谷地一番二の土地とともに売渡されたい旨の申入をした。原告はこれを承諾した。
岩渕課長は原告から同年三月七日その旨を記載した承諾書に署名捺印を受けた。
開発公社は同年四月二四、五日ごろ原告代理人の門間春吉弁護士との間に右土地についての売買契約を締結し、売買契約書を作成したうえ、内金として同弁護士に五七二万五〇〇〇円、同年五月二五日に対し残額二二九〇万四二四〇円の支払をした。
原告主張のAの土地は右二七二番および三二四番二の土地の一部である。
4 次に、宮城県は開発公社から昭和四〇年一二月一五日原告と開発公社との間の右契約における買主の地位の譲渡を受け、原告との間に昭和四一年一月一四日右土地についての売買契約を締結し、売買契約書を作成して、同月一八日その旨の登記手続をした。
5 ところで、宮城県および開発公社は、BCFGHの土地(当時これらの土地と宮城県が原告から買受けた中芳谷地の土地とは一体として畦畔によつて四五枚の水田に区分されていた。)については、公図上青色に塗り分けられ、水路として表示されている国有地であると主張していたため、原告は昭和四〇年七月一四日被告に対し訴を提起し、原告が時効取得した土地であると主張した。
仙台地方裁判所は昭和四九年一月三〇日BCFGHの土地がいずれも原告の所有であることを確認する旨の判決を言渡し、昭和五〇年一〇月六日控訴棄却、昭和五一年一二月二四日上告棄却の判決の言渡がなされた。
6 宮城県は原告から買受けた中芳谷地の土地(ただし、二六六番および二七二番の土地は分筆された一の土地)と荘司格一から昭和四〇年一月一四日買受けた仙台市原町南目字中芳谷地三二四番一、三九六番一、同番二、三九九番の土地をいずれも昭和四四年七月二九日国(運輸省)に譲渡した。
7 国(運輸省)は仙台市の施行する土地区画整理事業の換地計画において右譲渡を受けた土地に対する換地として仙台市扇町三丁目三番四宅地(本件宅地)の指定を受けた。
宮城県知事は昭和四七年七月三一日右換地処分をした旨を公告した。
本件宅地は現在仙台陸運局が敷地として使用している。
8 これに対して、原告は、原告と宮城県との間になされた売買契約は無効であると主張し、国との間の確定判決により原告の所有であることを確認されたBCFGHの土地については原告に権利があるとして、ことごとに被告と抗争してきた。
以上の事実が認められる。
二 原告は、宮城県との間の右売買契約は無効であるとの主張をするが、本件の全証拠によつても、この点を首肯させる事実を認定することはできない。
三 次に、<証拠略>を総合すると、仙台陸運局が敷地として使用している本件宅地の地積は一五九三六・八六平方メートルであること、そのうち、原告の引渡を求めるBCFGHの土地の地積は合計約一一八五・五八平方メートルであること、BCFGHの土地は現地のいずれにあたるかが容易に確定しえないものであること、これらの土地はいずれも細長い帯状の土地で、原告が被告から引渡を受けたからといつて、それだけではなんら使用するわけにはいかないものとみられることが認められる。すなわち、原告とつては、それ自体独立しての利用価値がほとんどない土地というべきである。したがつて、被告がその部分の引渡をすることによつて蒙る損害と原告がその引渡によつて得る利益とを比較検討するときは、仮にその主張するBCFGHの土地が原告の所有に属するものであるとしても、被告にその引渡を求めることは権利行使の正当な範囲をこえて権利を濫用することになるといわなければならない。権利の濫用は許されない。
四 原告の本訴請求は失当である。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 武田平次郎 池田亮一 林正宏)
図面 <略>
目録 <略>